Project Story
プロジェクトストーリー
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Webアニメ版「俺、つしま」の軌跡
全2回連載
【第1回】いかにYouTubeユーザーにリーチするか。「俺、つしま」Webアニメ版配信までの軌跡
インタビュー・文:横川 良明
アスミック・エースの歴史にまた新たな挑戦が加わった。
昨年7月からMBS/TBSの「スーパーアニメイズム おしり枠」にて放送されたアニメ「俺、つしま」。本作は、TVアニメ版に加え、YouTubeのAsmik AceチャンネルにてWEBアニメ版も配信。TVアニメの放送が終わったあとも配信は続き、全話で105回に及ぶ人気コンテンツとなっている(2022年3月時点)。
アスミック・エースではほとんど前例のなかったWebアニメ配信の裏側には、どんなトライ&エラーがあったのだろうか。プロデューサーの西、宣伝の田邊、そしてWeb広告・数値分析を担当した内保の3人に、それぞれの取り組みを聞かせてもらった。
今後のためにもYouTubeの可能性を知りたかった
まずはプロデューサーである西さんから「俺、つしま」アニメ化の経緯をお聞かせください。
西 僕はもともと漫画をよく読んでいて。仕事でも、猫が出てくるショートアニメに多く関わらせてもらっていたんですね。そういったことから、「俺、つしま」の原作ももちろん読んでいました。
まずは非常にシュールな世界観であること。そしてリアルな猫の生活が描かれていて、きっと猫好きには刺さるだろうなと思ったこと。さらにコミカルなタッチでありながら、思わず泣けちゃうエピソードも散りばめられていて、猫好きの方はもちろん、そうでない人にも届く作品になっていることに魅力を感じ、アニメ化したいですとオファーをさせていただきました。
「俺、つしま」は2021年7月からMBS/TBSの「スーパーアニメイズム おしり枠」にて放送されました。さらに同時にYouTubeのAsmik AceチャンネルでもWebアニメとして配信することに。このTVアニメとWebアニメの2本立てという構想は最初からあったんですか。
西 そうですね。最終的に「スーパーアニメイズム おしり枠」でやらせていただけることに決まったのは大きかったんですけど、地上波もやりつつYouTubeというのは当初から想定した流れではありました。
長尺という形式ももちろん考えはしたんですけど、多くの方に知っていただくには見やすい形態をとることが重要。特にYouTubeでは長尺ものより短尺ものが支持される傾向が強かったので、「俺、つしま」に関しては早い段階からショートアニメという形でご相談をさせていただきました。
今はいろんなVODサービスがある中、YouTubeで無料公開という選択に至ったのは、どんな理由があったのでしょうか。
西 僕たちの少年時代はテレビでいろんなコンテンツを無料で楽しめるのが当たり前でした。でも、世の中の流れはすっかり変わってきている。今やテレビだけが最も身近なウィンドウでなくなりつつあるのは、多くの人が実感しているところですよね。じゃあ次に来るウィンドウはどこかと言ったら、やっぱりYouTubeだろうと。
これは決してテレビがもうダメだと言っているわけではないんです。ただ、YouTubeにいろんな可能性が眠っているのは間違いない。であれば、YouTubeというウィンドウの力を、僕たち自身がまずは一度、実感値として理解しておくことは、今後を考えても非常に意義のあることだろうと。YouTubeならどれだけ多くの人に届けられるのか。その訴求力を知るためにも、YouTubeにトライしてみようという判断になりました。
アスミック・エースでは、これまでYouTubeでコンテンツを無料配信していくという前例はあったのでしょうか。
西 まったくないわけではないですが、少ないと思います。たとえば、弊社でやっている「こびとづかん」もそのひとつで。その派生である「こびとす」という人形アニメを2015年から配信しているんですけど、それが3〜4年前にいきなりバズりはじめて、第2話は今では2000万回以上再生されています。そういった突発的なバズりも含めて、YouTubeには秘めたるパワーがあるという認識があり、今回のWebアニメに至ったところはありますね。
TVアニメの放送が終了後も、Webアニメを続けていましたが、Webアニメに関しては最初から長期的な配信を考えて制作されていたんですか。
西 そうですね。気に入ったチャンネルの投稿はなるべく多く観たいという心理は、自分自身もYouTubeをよく観るのでわかるんですよ。地上波で放送していた間は週2、以降は週3というサイクルをつくって、みなさんに視聴習慣をつけてもらい、それを継続していくことは当初から考えていました。
未知なるYouTubeをいかに攻略するか
では、次は宣伝担当の田邊さんからお話を聞かせてください。今回の「俺、つしま」についてまず宣伝としてはどんな取り組みからスタートしたのでしょうか。
田邊 まずはターゲットの設定をすることが、宣伝の出発点です。今回で言えば、地上波でご覧になる方と、YouTubeでご覧になる方ではそれぞれ属性が異なるのではないかという仮説があった。そうしたプラットフォームの違いについて考えることから始めましたね。
また、作品の特性によってターゲットを切り分けることも必要です。「俺、つしま」なら、大きく分けて、猫好きの方、ショートアニメが好きな方、ギャグものが好きな方と、3つの分類が考えられる。さらに猫好きの方を細かく切り分けていくと、リアルな猫が好きな方もいれば、いわゆる猫コンテンツが好きな方もいる。そうした嗜好を見極めた上で、どんなターゲットに何を伝えていくかを、宣伝として考えていきます。
テレビの視聴者とYouTubeの視聴者では、宣伝におけるコミュニケーションが変わるのでしょうか。
田邊 テレビの場合、お客さんとのコミュニケーションは、TwitterやInstagramといったSNSがメインになります。けれど、YouTubeの場合、動画にコメント欄がついていて、YouTube内にもコミュニケーションの場がある。ですので、TVアニメのプロモーションはTwitterを中心にやりつつ、Webアニメに関してはどうやってYouTube内のユーザーにアプローチを仕掛けていくかを考えていく必要がありました。
田邊さんはYouTubeで配信されているWebアニメの宣伝を担当するのは初めてですか。
田邊 これまでプロモーションの一環としてYouTubeを活用することはありましたが、YouTubeで本編を配信し、そこで収益を得るというビジネスモデルは初めてでした。ですので、宣伝の方向性についても、お客さんの反応を見ながら、宣伝会社さんや社内のマーケティングチームと話し合って、都度都度修正していったという感じですね。
YouTube自体は普段からよくご覧になるんですか。
田邊 いえ、私はあまりYouTubeを観たことがなかったので、今回の「俺、つしま」をきっかけにYouTubeをよく観るようになりました。やっぱり観ていると、だんだんYouTubeの文化がわかってくるんですよね。YouTuberの方が動画でどんなことをされているのかとか、コラボの切り口としてこういうケースもあるのかとか、ためになるアイデアがたくさん見つかって、宣伝を考える上でもいいヒントになりました。
内保さんはどんな業務を担当されたのでしょうか。
内保 西さんや田邊さんはアニメ事業部の方なんですけど、私はマーケティング推進部というセクションにいて、普段はWEBプロモーションや当社のYoutubeチャンネルの運用を担当しています。「俺、つしま」に関しても出稿まわりでサポートできることがあるんじゃないかということでプロジェクトに参加しました。
具体的にはどんなことをされるんですか。
内保 広告に関することはもちろんですが、YouTubeの再生回数を伸ばすための施策を考えたり、「YouTubeアナリティクス」というアクセス解析ツールを使って、視聴回数や再生時間はもちろん、リピーター数や新規視聴者数、アクセスが多い時間帯など、様々なデータを分析し、数値改善のための提言などをさせていただきました。
Webだからこそアニメを観ない層にアプローチしたかった
では、ここからは具体的な取り組みについて聞いていきます。TVアニメとWebアニメ。プラットフォームの違いによって変えたことはありますか。
西 「スーパーアニメイズム おしり枠」は名前の通り、30分のアニメが放送されたあとに、ショートアニメがくっついてくるという放送枠です。時間帯も深夜ですし、主要な視聴者はアニメ好きの方たち。そのため、TVアニメに関してはアニメらしい作品というか、猫の毛並みもこだわって再現していただき、アニメファンも納得の作品を目指しました。
一方、YouTubeは検索したキーワードに関連する動画がレコメンドされる仕組みになっているため、普段アニメは観ないけど猫が好きという方にリーチできる可能性がぐっと高まります。ですので、猫好きの方にあるあると共感していただけるエピソードを中心にピックアップし、絵柄に関してもアニメに関心のない方でも入りやすいよう、あまり尖った感じにはせず、ちょっとデフォルメを効かせて、キャラクターものとしての愛らしさが出るよう意識しました。
田邊 宣伝では、YouTubeならではの手法としてキャッチーなものが3つあります。1つめはコラボ動画。去年7月に、中川翔子さんとBEAMSが共同プロデュースするファッションブランドmmtsと「俺、つしま」のコラボアイテムを発売したんですけど、その際に中川翔子さんとおじいちゃん役の田中真弓さんのコラボ動画を配信してもらいました。
他にも、今年2月に「名もなきねずみ」とのコラボ動画を公開しました。今後もファンのみなさんの反応を見ながら宣伝展開していければと考えています。
2つめが、投げ銭(スーパーチャット)ですね。昨年10月から毎月22日の「にゃんにゃんの日」にまとめ配信を始めたんですけど、そのときに観てくださる方がさらにコミットできる仕掛けがほしいなと思って、投げ銭を導入しました。この投げ銭で得た収益は公益社団法人アニマル・ドネーションを経由し、猫の保護活動をしている14団体に寄付しています。
そして3つめが、ツイキャスです。昨年10月に、つしま役の大塚明夫さんをナビゲーターにお迎えし、「俺、つしまツイキャス鑑賞会」という企画を実施しました。TVアニメではほとんどやらない取り組みなんですけど、YouTubeをよく利用しているユーザーにとってはツイキャスのようなライブ配信は親和性が高いと思ったんですね。実際、大量のコメントで反響があり、これまでリーチできなかった層にも届いた手応えがありました。
内保 広告に関しては、まずはYouTube内から新規のお客さんを獲得できるよう、ディスカバリー広告(現:インフィード広告/検索キーワードや動画との関連性に基づいて表示される動画広告のこと)に力を入れました。ターゲットは、アニメ好き、猫好きのYouTubeユーザー。普段からYouTubeに親しみのある人たちが目にしたときにキャッチーに見えるよう、サムネイルに関しては既存のYouTuberのみなさんがよくやられているようなデザインや文言を参考にしました。
実際に手応えはいかがでしたか。
内保 お金をかける分、新規のお客さんを連れてこられるのは、確かです。ただ、こうした広告で重要なのは費用対効果。そのあたりの成否については議論のいるところだと思います。実際、どうでした?
西 広告を出した回は他の回と比べても圧倒的に再生数が伸びているので、観てくれた人が増えたのは間違いないと思います。じゃあ、その人たちがどういう人たちだったのか、というところは現在分析中なので感覚になってしまうのですが、一口に猫好きと言っても、どういう猫が好きなのか、年齢層はどのくらいか、普段どういうアニメを観ている人なのかなど、ある程度ターゲットを絞り込んだ上で広告を打っていたので、そこで視聴が伸びたということは、きっと狙った層に対してしっかり刺さったのではないかなと受け取っています。
始めること以上に、長期継続し、収益化させていくことが難しいYouTubeコンテンツ。3人は「俺、つしま」をどうやって軌道に乗せていったのか。後編は、Webアニメ版「俺、つしま」に込めたポリシーや収益化のための創意工夫を聞いていく。
公式YouTube:https://www.youtube.com/user/AsmikAce21/playlists?view=50&sort=dd&shelf_id=8
公式Twitter:https://twitter.com/tsushimacat
原作/おぷうのきょうだい「俺、つしま」(小学館刊)
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