Project Story
プロジェクトストーリー
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映画会社が手がけるショートドラマ「STUDIO sauce」プロジェクトへの挑戦
インタビュー:大曲 智子
全2回連載
2024年8月に立ち上がった、au×アスミック・エースによるショートドラマ作品制作プロジェクト「STUDIO sauce」。第1弾として、オムニバスドラマ『てのひらラブストーリー ~婚活五重奏~』が配信。さらに12月2日からは第2弾『Toshio-free-Wi-Fi』の配信がスタート。これらはTikTokやYouTubeなどの縦型ショート動画に特化した作りとなっており、1話あたりの尺がとても短く、スマホの形式を活かした縦型の構図であることが大きな特徴だ。プロデューサーとして「STUDIO sauce」を立ち上げたアスミック・エースの木内悠介、竹迫雄也に、ショートドラマへの挑戦の裏話を聞いた。
ショートドラマ作品制作プロジェクト「STUDIO sauce」の企画は、どういうところから立ち上がったのでしょうか。
木内:昨今、TikTokやYouTube、Instagramなどでショート動画が見られるようになっています。今や誰でも動画を作れる時代であり、それらの動画がたくさん再生され、盛り上がっていて、ライトなものが多いのですが、一方でハイクオリティな作品はまだ少ないと感じていました。それをもし映画会社が手掛けたらどうなるのかという、実験的な思いも込めて取り組んだのがこの企画です。すでにショート動画企画を多く手掛けていたKDDIさんと私たちアスミック・エースが同じグループ内企業ということもあり、KDDIさんの携帯電話ブランド「au」と、アスミック・エースの「ace」を混ぜて、「STUDIO sauce」と名付けました。
竹迫:弊社は普段、劇場用映画の作品を作っています。多くのユーザーがいらっしゃるKDDIさんと組むことで、劇場以外の場所で作品を公開できるようになったのは、大きな意義があると思っています。これまでは2時間ほどの映画を作ってきたのに対し、ショートドラマは2、3分。短い尺で物語を作るという課題にぜひチャレンジしたいと思いましたね。
どのような点に留意しながら脚本を作っていったのでしょうか。
竹迫:共同テレビさんと一緒に制作したのですが、お互い初の試みでした。なにせ映画にはない尺感ですし、普段TVドラマを作られている共同テレビさんにとっても初めての短さ。考えたのは、脚本の段階でフックを作ること。興味を持たれなければ流されてしまうショートドラマの世界は、指を止めて視聴してもらえるかが勝負。そのためには引っかかるポイントを作る必要があるんです。映画は、お金を払った方が劇場に2時間座ってくれるという、見る環境が整った状態です。けどショートドラマは無料ですし、気軽に飛ばされてしまう厳しい世界。いかに視聴を続けてもらうかを重視しました。
『てのひらラブストーリー』を例にあげると、各作品7〜12分ほど。それをさらに前編・後編の2話に分けて配信していますね。
木内:ショートドラマを研究すると、1話あたり2〜3分のものが多かったので、最初は3分を目安に脚本を作っていきました。ただ、実際に撮影をしていくと、役者さんたちのお芝居がどれも素敵で、切ることができず…(笑)。お芝居も含めての面白さなので、結果的には1話あたり5、6分になった作品もありました。第2弾の『Toshio-free-Wi-Fi』は脚本作り、撮影の段階から尺を意識して作っています。
できるだけ短いほうが理想的なジャンルなんですね。
木内:ショートドラマは中国など海外でも多く作られていて、どれも1分ぐらいの尺がベースです。あとはプラットフォームの影響が大きいです。TikTokやYouTubeなどで、おすすめとして上げられたものをランダムに見ていくのが基本。TVや映画が自分で選んで見る能動的スタイルだとすれば、ショートドラマは偶然見るという受動的スタイルなんです。冒頭にフックがあり、尺は1分ほどというのが、今のユーザーにとっては魅力があるようです。我々もトレンドに合わせて感覚を随時アップデートするようにしています。
クリエイターやキャストは映画やテレビの第一線で活躍している方々が中心に参加されている印象を受けました。
木内:これまで映画やテレビで活躍していた方々の垣根を超えた活躍の場として、ショートドラマという領域を提示していきたいという思いがあります。実際に作品に参加していただいた第一線で活躍されているクリエイターやキャストの方々も初めての取り組みでしたが、楽しんで撮影に臨んでいただきました。さらに今後の活躍が期待されている方にも積極的に参加いただき、第2弾の『Toshio-free-Wi-Fi』脚本の海路さんは20代の若手クリエイターで普段、演劇の作・演出をメインに活動されている方です。どの方も縦型ショートドラマは初挑戦なので、一緒に作り上げる作業を大事にしていきました。
スマホに合わせ縦の構図というのも特徴です。実際の撮影はどのように行っているのでしょうか。縦型の難しさはありますか。
木内:通常の撮影用カメラを縦にして撮影しています。スマホで見ることを考えると、画面に映るのは基本的に1人か2人。役者の顔をかなり寄りで撮るのも特徴だと思います。面白いのは、たとえば座っている人物が手を使った芝居をするときに、横型の撮影だとかなり意識しないと手の動きが伝わりにくいですが、縦型の場合は人物の体をいっぱいに映せるので、ナチュラルに動いてもらっても意外と大丈夫なんですよね。お芝居を映すのに縦型って向いているんだなという発見がありました。
竹迫:上下が広くなるので、撮影現場では音声さんが苦労されていましたね。横型だと、カメラの下からマイクを入れて役者の声を拾うのですが、縦型だと上も下も映り込んでしまう。現場でも手探りでやっていましたね。
完成したドラマは非常にテンポが速いですね。セリフの字幕をデザインして入れていたりと編集面も特徴的だなと感じました。
竹迫:受動的に見る方も多いショートドラマなので、集中して見なくても情報として動画を楽しめるようにという留意点があります。セリフの間がありすぎると視聴を止めてしまう方も多いようなので、会話が続く場面はポンポンとつなげて盛り上げたりと、ちょっとした工夫を散りばめています。今は電車で音なしで見る方もいるので字幕を入れています。もちろんイヤホンで音まで楽しむ方も多いので、目でも耳でも楽しめるように。そこは通常の映画と変わらないですね。監督たちは効果音でもフックを作ってくれているように思います。
新しいプラットフォームでドラマを作るという課題に対し、試行錯誤しながら作られているのですね。
竹迫:本当に試行錯誤の連続です。撮影中に解決できなかったことは、編集で「ここはもっとつまんだ方が」「テンポをもっとよく」と話しながら編集しています。「つかみの数秒が大事なので、このシーンを前に持ってこよう」というような大胆な編集もポスプロ段階で結構ありましたね。
第1弾『てのひらラブストーリー』は全5話のオムニバス形式でしたが、第2弾の『Toshio-free-Wi-Fi』は全10話の連続ドラマの構成です。違う切り口でのショートドラマですね。
木内:最初にオムニバスドラマを作ったので、ラインナップの幅をみせていくために、次は連続ドラマを作りました。「ある日、自分がWi-Fi人間になってしまったら」というシンプルながらも面白い設定で始まり、各話にフックを入れることを心がけて。連続ドラマだけどどこから見ても楽しめるし、前後が気になるように工夫しています。
竹迫:映画会社が手がけるショートドラマブランド「STUDIO sauce」としても、いろいろなジャンルに挑戦したいという思いがありました。『てのひらラブストーリー』はオムニバスで、婚活をテーマにした人間ドラマ。『Toshio-free-Wi-Fi』はSF風に。今後も幅広いジャンルで作っていきたいと考えています。
縦型ドラマについて、キャストからはどんな感想がありましたか?
竹迫:『Toshio-free-Wi-Fi』主演の沢村一樹さんは、脚本のトリッキーさに興味を持っていただき、「出来上がる映像がどうなるのか、こんなに想像がつかないのは初めてです」というコメントを寄せてくださいました。縦型のショートドラマへのチャレンジという点でも大いに関心を寄せてくださっていたなと思いますね。現場での沢村さんは、最初は戸惑ったようですが、モニターを見て「こういう感じになるんだね」「意外と手元まで映るね」と確認したり監督とディスカッションをされていました。どの方も初日にそういった確認をして、あとはカメラを意識せず芝居に集中されていたので、みなさんプロフェッショナルという感じでしたね。
2作品を公開して感じた手応えや今後の目標などがあればお聞かせください。
木内:視聴者の方からの感想はもちろん、普段やり取りしているキャストやクリエイターの方から、「ぜひ自分も参加したい」という声をいただき、自信につながりました。引き続き作品を作っていき、ショートドラマ界でのポジションを確立させたいです。今後生まれたIPを元にした長編作も作れそうですよね。より多くの方々のもとへ広がっていくことを願っています。
竹迫:最近ではテレビ局でも作り始めている縦型ショートドラマですが、映画会社としては初の試みです。作品の長編映画化なども視野に入れつつ、既存の映画ビジネスにとらわれない新事業にどんどんチャレンジしていきたいですね。
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