Project Story

2024.10.16
第2回
第2回

SHARE

  • Twitter
  • Facebook
  • LINE
Project Story#18

堂本剛の〝孤独力〟に、いつしか人々は惹かれていく

インタビュー:平田 真人

全2回連載

2024年10月18日公開、堂本剛27年ぶり単独主演映画として話題の『まる』。荻上直子監督が堂本へアテ書きした主人公・沢田を、非日常的な日々へと巻き込んでいく周囲のキャラクターたちも魅力的に活写されている。そのキャスティングも綾野剛、吉岡里帆、森崎ウィンに柄本明、小林聡美……と、個々に主演を張れる布陣がズラリ。この豪華な配役を実現させるまでのプロセスを、アスミック・エースのプロデューサー・山田雅子と荻上監督に振り返ってもらいつつ、作品の中心に位置し続けた堂本剛の役者、引いては人としての魅力についても聞いた。

『まる』は、長らくお芝居から離れていた堂本剛さんをはじめ、キャスティングも魅力的な作品になっています。配役の妙という言葉もありますが、どのようにしてキャストを決めていったのでしょう?

山田:まず、堂本さんにとって27年ぶりの主演映画ということで、極力オールスターキャストでいきたいと制作サイドとしては考えていました。で、それぞれの役と候補の俳優さんを挙げていきつつ……せっかくなら荻上さんが組んだことのない方を中心にキャスティングしたら面白くなるんじゃないかなと思ったんです。そこから、横山を誰に演じてもらうか考えて、いわゆる〝荻上ワールド〟のイメージから遠い人がいいんじゃないか、という話になり、お忙しいのは承知で綾野剛さんにお願いしてみよう、と。そうしたら、荻上さんが綾野さん宛てに「横山は、いろいろなものに嫉妬している私のダークな部分を擬人化したキャラクターなんです。ぜひ綾野さんに演じていただきたいです」と、メッセージを沿えてくださって──。

荻上:あぁっ、そうでした! 今、山田さんに言われるまですっかり忘れていました(笑)。

山田:本人がおっしゃっていましたけど、あのメッセージが綾野さんの心を大きく動かしたのは確かだったようです。荻上さんが取り繕うような人じゃなくて実直だからこそ、なお響いたのかもしれないですね。

荻上:メッセージを書いて良かった(笑)。あとキャスティングで言うと、土屋役の早乙女太一さんも現場に入る前はあんまり想像がつかなかったんです。朝ドラ(2022年10月〜23年3月のNHK連続テレビ小説『カムカムエヴリバディ』)で拝見したぐらいだったので、「どういう土屋になるのかな」と思っていたんですけれども、まったくの杞憂に過ぎなかったな、と。その時、山田さんの配役の素晴らしさを改めて感じたんですよね。

山田:土屋はちょっと得体の知れなさがあるキャラクターなので、良い意味で浮世離れしている方が合っている気がしたんです。なので、生まれた時からいわゆる一般的な家庭とは異なる環境に身を置いて育つ〝伝統芸能枠〟から、早乙女さんに白羽の矢を立てました。たぶん、荻上さんの作品に早乙女さんをキャスティングするプロデューサーは私ぐらいだろうという妙な自負があったりもするんですけど(笑)。

荻上:早乙女さんご本人もちょっと不思議な方で、何を考えていらっしゃるのか読めないところが面白かったですね。土屋が得体の知れない笑みを浮かべるシーンで、「そのイヤな感じの笑い、イイですねぇ!」って言ったら、ニコッとされて。あれはうれしがってくださったのだろうなと、私は勝手に解釈していて(笑)。

これまでのイメージと違うというところでは、吉岡里帆さんが矢島というパンキッシュな役を演じたのも意外でした。

山田:見た目は確かにかわいらしいですけど、芯が強い人というイメージが私の中ではあったんですよ。それでいて周りを見る視野の広さも感じていたので、矢島というキャラクターの芯を適確に捉えてくださるんじゃないかと期待して、お声がけしました。何より、吉岡さんが「荻上さんとご一緒したい」と前々から熱望されていたと聞いて、「であれば、今だ!」と。

荻上:7年ぐらい前に脚本を手がけたドラマ(2017年1月にNHK BSプレミアムで放送された『朗読屋』)に出ていらっしゃいましたが、その頃はまだ若干初々しさが残っていたというか、〝駆け出し感〟の印象が強かったんです。ところが『まる』の現場でお会いしたら、もうしっかりと女優の風格を身につけていて、驚かされました。ありがたいことに、ご本人がずっと私の作品に参加したいと思ってくださっていたそうなので、もっとガッツリと組めたら良かったんですけれども……。

山田:矢島は元々、要所要所で出てくるキャラだったのもありますが、吉岡さんが「荻上さんの作品であれば、何が何でも」とスケジュールを調整してくださって。そこまでして出てくださった心意気がありがたかったですね。

荻上:それこそスケジュールの都合で、彼女のクランクインが駅のロータリーで「寿司が食べた〜い!」と叫ぶシーンだったんです。でも、リハーサルの段階からもう全力で、「すごく面白いです」って言ったら、「わ、ありがとうございますっ!」と、それこそ駆け出しの頃のように無邪気に喜んでくださって(笑)。

山田:荻上さん、矢島を主人公にしたスピンオフが1本書けるって前に言っていましたけど、それを吉岡さんに別の取材の場で伝えたら、めちゃめちゃ喜んでいましたよ(笑)。

荻上:どういう半生をたどってあの矢島になったのか、私も書きたいです。もちろん、ほかの作品でもまたご一緒できたらうれしいですね。

キャストの目玉というか、荻上監督の『かもめ食堂』(06)が大好きな方々にとって小林聡美さんの10数年ぶりのカムバックは、すごく大きなトピックだったように思います。

荻上:(※日本テレビで2008年4〜6月に放送されたドラマ『2クール』以来)16年ぶりになるのかな? 私も久しぶりにご一緒できて、うれしかったです。

山田:『かもめ食堂』と『めがね』(07)では、はからずも〝ほっこり系〟のミューズ的な受け取られ方をした小林さんに、逆張りじゃないですけど……正反対のキャラクターを演じていただきたかったんです。

荻上:小林さんの若草萌子は絶妙でしたね。脚本も深いところまで読みこんでくださって、自分でも詰めが甘かったかなと自覚していたところをご指摘いただいて、書き直したんです。

山田:「すごく面白いんですが、そこだけが気になります」って。さすがだなと思いました。

荻上:それと(片桐)はいりさんに古道具屋の店主を演じていただいたらどうか、というのも山田さんの案だったんですよ。台本では、おじさんとして描いていたんですが、はいりさんが演じてくださったことで正体不明感が増して、結果的により怪しくなったなと思います。

山田:性別ありきで配役を考えていくと煮詰まってしまうんですよ。それで、少し視野を広げていって……「久しぶりの荻上組だから、はいりさんも受けてくださるんじゃないか(※『かもめ食堂』以来の出演になった)」と期待して、お願いをしてみました。ヒゲをつける案もあったんですけど、あえておじさんなのかおばさんなのか分からない感じでいくことになったんです。

お話を聞いてきて、当たり前ですがキャスティングが作品の生命線でもあるのだな、と感じた次第です。

山田:それがすべてとは言わないまでも、大切な要素ではあるなと思います。基本は映画の規模に応じたキャスティングを考えますが、荻上さんのように作家性の強い監督の映画であれば、「この人を荻上さんの世界観に住まわせてみたら、面白くなりそう」といった、クリエイターを含めた組み合わせの妙を追求することが大事なのかなと。

荻上:私自身はキャスティング能力がないと自覚していますし、勉強不足で「最近、こういう俳優さんがいる」「この人が勢いがある」といったことに疎いんです。それに撮影以外のプライベートで役者さんとも会わないですし……。なので、プロデューサーの方に頼るところが多々あって。持ち上げるわけでも何でもなく、『まる』では山田さんにすごくお力添えいただいたなと思っているんです。

山田:プロデューサーからすると、〝荻上組レギュラー〟的な俳優さんがいないことがプラスに働いたように感じます。スタッフは荻上さんの作品にも人柄に惹かれて、何度も一緒に撮っている〝猛者〟たちが集まっているんですけど、俳優さんは初めて組む方がほとんどで。小林さんやはいりさん、柄本明さんのように何度かご一緒されている方もいらっしゃいましたけど、基本は作品の世界観の中に生きている人物に、どう実在の俳優を配していくかを大事にされているので、キャスティングする側としては作品ファーストで配役を考えることができるんですよ。『まる』はまず堂本さんありきで、周りをどう固めていくかというところで配役していったんですけど、手前味噌ながらベストなキャスティングができたんじゃないかなと思っています。

そのようにして映画『まる』が完成した今、改めて堂本剛という人の魅力をお2人に語ってもらえればと思います。

山田:ひと言で言い表すのが難しいんですけど、突き詰めると〝共感される〟ところに魅力が集約されているのかなと思います。若い頃から華やかな世界に身を置いて注目を集めてきた反面、何かを失ったり諦めたり、傷ついたことがあったと明け透けに語るじゃないですか、ラジオやインタビューで。そうやって一個人としての思いを言葉にしつつ、表現者としてはエンターテイナーであり続けるのが素敵だし、興味を引くのだろうなと感じました。

荻上:いろいろな取材の場でもお話しましたが、堂本さんって本当に純粋な人なんですよ。10代の早い時期から仕事を始めて、大人たちの嫌な部分も目にしてきたと思うんですけど、浮ついた感じが一切なくピュアな心のまま大人になったのは、黒く渦巻く欲みたいなものに取り込まれない──跳ね返す力があったからこそ、なのかなって。それは言い換えれば〝孤独力〟というようなもので、周りに何と思われても本来の自分自身でいることを大切にしてきたからじゃないか、と私は思いました。

山田:とはいえ達観はしていないし、今でも悩んでいることを明かしてくれたりするじゃないですか。悩み苦しんでいる人たちとご自身の感覚を共有してくれるところにこそ、魅力があるのだなと思います。その葛藤する姿は『まる』の沢田とも重なってくるんですけど、結果論ながら堂本さんと荻上さんが組んでメタ構造的な映画を一緒につくれたのは、必然だったのかなとも感じていて。都合のいい解釈かもしれないですけど、映画の神様が微笑んでくれたのかなって。

荻上:27年ぶりの映画ということで、いろいろな企画を考えたんですよ。それこそ、アイドル映画的なプロットだったり。でも、今の堂本さんだからこそ深みと味わいが増すようなテーマを提示したことで、受けていただくことがかないました。ただ、正直まさか本当に自分の映画に出てくださるとは想像もしていなかったので、改めて堂本さんには感謝の気持ちでいっぱいです。