Project Story

2024.10.09
第1回
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Project Story#18

堂本剛と荻上監督の親和性に映画化実現の活路を見い出した

インタビュー:平田 真人

全2回連載

実に27年ぶりの単独映画主演。俳優・堂本剛がスクリーンの中で滋味深き芝居を見せる! 映画『まる』は、大ヒットした『かもめ食堂』(06)やベルリン国際映画祭で観客賞・審査員特別賞を受賞した『彼らが本気で編むときは、』(17)、第33回日本映画批評家大賞で主演女優賞・監督賞に輝いた『波紋』(23)などの荻上直子監督が、堂本に主人公をアテ書きしたオリジナル作品だ。美大を出たもののアートで身を立てられずにいた沢田がふと描いた「○=まる」が、本人の知らないところでどんどん価値が上がり、人生を翻弄されていき──「自分とは何者か?」と見つめ直すヒューマンストーリー。この企画を具現していった過程を、荻上監督とアスミック・エースのプロデューサー・山田雅子へのインタビューによって、つまびらかにしていく。

率直にうかがいますが、『まる』という映画はどのようにして企画が立ち上がったのでしょうか?

山田:荻上監督とは(テレビ東京で2021年4〜6月に放送された)ドラマ『珈琲いかがでしょう』でご一緒して、ぜひまたタッグを組んで作品をつくりたいなと思っていたんです。そういうビジョンもありつつ、お茶をしたりご飯を食べたりしながら「こういうのができたら面白そう。じゃあ、どうすれば実現できるんだろう」と、たびたび話すようになりまして。その流れで俳優さんの話題にもなって、気になるのは誰ですか?といった会話を交わす中で、荻上さんが堂本剛さんのお名前を挙げられたんです。実現するかどうかはさておき、お2人が組んだら面白い作品になりそうだな、だったらオリジナルで何かできないかな……と感じたのが、今にして思えば『まる』のスタートでした。

荻上:私はフリーランスの監督なので、お仕事を受けるかどうかを自分で選択しているわけですが、わりと直感的に瞬時で決めているんです。『珈琲いかがでしょう』は私にとって初めてマンガ原作の実写化作品で、それまではずっと(実写化作品のオファーが来ても)お断りしていたんですけど、「今回はやってみよう」という勘が働いて打ち合わせに向かったところ、山田さんがいらっしゃって。その出会いを経て、「次も一緒に」というお話の流れから堂本さんと作品をつくれるかもしれないと聞いて、すぐに「やります!」と食らいついてしまって……(笑)。

山田:プロデューサー目線で言うと、荻上さんと堂本さんは同一の世界線上と言いますか、意外と近いところにいるように感じられたんです。片や音楽を軸に活動するアーティスト、片や映画作家で接点がなさそうに思いがちなんですけど、客観的に見てちょっとした親和性、組み合わせの妙を嗅ぎとったと言いますか。きっと堂本さんのファンの方々も荻上さんの映画が好きな方々も、お2人が一緒にオリジナルの作品をつくると聞いたら、「それだ!」と膝を打つんじゃないかな、という〝嗅覚〟が働いたんです。それと個人的に荻上さんと私は〝ものの見方〟が近いように感じていて、彼女が気になる存在として堂本さんを挙げた時も「あぁ〜、分かる」って納得できたのも大きかったですね。

荻上:私も、『珈琲いかがでしょう』の制作時から山田さんのセンスの良さに信頼を置いていたので、「堂本さんと荻上さん、合いそう」と言っていただけて、すごく心強く思ったのを覚えています。とはいえ、まさか実現するとは思っていなかったので……受けてくださるかもと聞いた時は、ただただビックリしました。

山田:確かに長らくお芝居から離れていらっしゃったので、容易ではないだろうなと思いつつ……案外、お話は聞いてくださるかもしれないという予感が、何となくしていたんです。というのも、シリアスな事象を描いていてもどこかクスッと笑える荻上さんのユーモラスな作風が、堂本さんもお好きなんじゃないかな、と──。シリアスになりきらずに人間の滑稽さやおかしさを掬い上げるというところでの荻上さんの作家性と堂本さんの感性に、先ほどお話した親和性があるんじゃないかなと個人的には思っていました。

荻上監督も「堂本さんとは感性が合いそう」と感じていたのでしょうか?

荻上:いえ、そういったことは考えたこともなくて……そもそも堂本さんのことが気になったのは、初めてテレビで見た時に「こんなに華やかな世界にいながら、なぜこの人は辛そうなんだろう?」と思ったからなんです。今回、主人公をアテ書きするにあたってインタビューを読んだり、ラジオを聞いたりもしましたが、自分と同じように悩んでいる人たち、迷っている人たちに寄り添うように同じ目線でお話をされていて、その誠実さに改めて惹きつけられました。そういった人柄も踏まえて、『まる』のようにちょっとダークなユーモアのある作品は、表現に対しても誠実で妥協せず、真剣に取り組んでくださる堂本さんが演じることで面白さが増していったと思っています。

山田:日常生活って淡々と進んでいく中に笑いや悲しさ、寂しさといったものが散りばめられていて、実際はコメディーや悲劇のように明確な線引きってされていないじゃないですか。でも、誰かにとっては喜劇的な出来事が、当事者には悲劇だったりもする。そういう視点の違いで生まれる面白さが荻上作品の魅力ですけど、堂本さんのお芝居に取り組む姿勢によって、あまりカリカチュアライズされすぎず地に足の着いた人物像になったんじゃないかなと思っているんです。

『まる』の脚本は、堂本さんが主人公の沢田を演じる前提で〝アテ書き〟されたと、荻上監督はさまざまなメディアでもお話されていますが、撮影現場で〝台本を超えるようなふくらみ方〟をしたと感じる瞬間はあったのでしょうか?

荻上:そこについては綾野剛さんが演じた横山のキャラクターが、良い意味で自分たちのイメージとは違う方向へ行ってくれたと感じていて。堂本さんも綾野さんのお芝居を面白がって、セッションをするように応えていらっしゃったので、より面白くなったという感覚が私の中ではあります。台本上だと沢田と横山の間には超えられない壁があったように思えたのが、撮ってみると2人の間に奇妙な友情のようなものが生まれてくる感があって。横山が沢田の部屋の壁を蹴って穴を開けたことで、まさしく2人の距離感が近づくことになったのも興味深かったですし、クライマックスのシーンで壁の向こう側の横山は、沢田のことを思って穴の周りにお花畑を描いているんですけれども、それも綾野さんのアイディアだったんです。随所でアドリブを入れてきたり、セリフも少しアレンジされていたり……予想を超えるキャラクターに横山をしてくれたのは、私としても面白かったですね。

山田:綾野さん、40代になられてから、またさらに魅力や色気が増したように思っていて。いわゆるゾーンに入っているのかなと感じているんですよね。

荻上:そうそう、色っぽいですよね。ちょっと往年の松田優作さんのような味が出てきたようにも思います。

山田:俳優さんはみなさん、もちろんプロフェッショナルなんですけど、作品や役に対する向き合い方が綾野さんは独特で、そのアプローチならではの横山になったのかなと思います。

その綾野さんの芝居に応じて沢田の人物像も微調整していく堂本さんの役への取り組み方も、すごく真摯だなと感じました。

荻上:私自身も本番直前まで「どうやって撮ろうか」と悩むことがあったりもしましたが、そういう時に堂本さんは一緒になって考えてくださったんです。いつでもすごく真剣に沢田のことを考えていて、「次のシーンなんですけど、ちょっとまだ迷っていて──」と言うと、相談に乗ってくださったりもして。

山田:堂本さんも綾野さんも荻上さんを支えようとするホスピタリティと言いますか、リスペクトする姿勢がすごく強かったように私は感じました。荻上さんの発想をさらに飛躍させようと、お2人とも同じ地平を目指して懸命に考えてくださっているのが伝わってきたんです。

荻上:お二方とも自分の役が云々ではなくて、『まる』という映画のことを第一に考えてくださった上で、いろいろと提案をしてくださって。

山田:それは荻上さんが「より面白い作品にするにはどうすればいいか、みんなで一緒に考えましょう」というスタンスの監督さんだから、というのもあって。それでいて表現の芯は太いから、ちょっとやそっとじゃ軸は揺るがないという安心感がある。だからこそ、さまざまな視点を足していけるのだと私は思っているんです。しかも、柔軟にアイディアを受け入れていくことによって、さらに芯が太いものになっていく。それこそが荻上直子という監督の強みであり、唯一無二の作品性につながっているんだなと感じました。