Project Story
プロジェクトストーリー
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「日本アニメーションのロックオペラ」誕生秘話
全2回連載
インタビュー・文:大曲 智子
TVアニメ『四畳半神話大系』や『映像研には手を出すな!』、劇場アニメ『夜明け告げるルーのうた』など、オリジナリティーあふれるアニメーション表現で多くのファンに支持されるアニメーション監督の湯浅政明。その湯浅監督が2022年に公開した最新作の劇場アニメ『犬王』は、室町時代に実在した能楽師の“犬王”を主人公にした物語だ。
ヴェネチア国際映画祭でのワールドプレミア上映を皮切りに世界の映画祭に多く選出され、またゴールデングローブ賞などにもノミネートされた本作。プロデューサーとして本作に企画から携わった竹内文恵と海外セールスを担当した加藤舞に、海外に向けて『犬王』を発信した狙いと手応えを聞いた。
『犬王』は2022年5月28日に日本で公開されましたが、それより前の2021年9月に世界三大映画祭のひとつであるヴェネチア国際映画祭にてワールドプレミア上映。その他、トロント国際映画祭、釜山国際映画祭、富川アニメーション国際映画祭、東京国際映画祭などにも出品されました。海外の映画祭に出品されたのはどういう意図だったのでしょうか。
加藤:湯浅監督はアニメの世界での知名度が非常に高く、これまでアニメやファンタスティック映画祭にたくさん選出・受賞されています。その次のステージとして『犬王』はジャンルに縛られない映画祭に出品しよう、三大映画祭のどれかに出そうというのはずっと念頭に置いていました。三大映画祭では湯浅さんのお名前はまだそこまで知られていないかもしれないし、今回は選出してもらえなくても、せめて監督の次回作のときにはお名前が知れ渡っているぐらい刷り込んでおきたいという気持ちを持って、映画の完成時期に合わせて映画祭を絞っていきました。
竹内:湯浅監督は『夜明け告げるルーのうた』でアヌシー国際アニメーション映画祭クリスタル(長編部門最高賞)を受賞されていますし、オタワ国際アニメーションフェスティバルでも『夜は短し歩けよ乙女』で長編部門グランプリを受賞されたりと、数々の映画祭で熱狂的に迎えられているんですが、どうしたらアニメファン以外の方にも知ってもらって、作品を見たいと思ってもらえるかなとずっと考えていて。それでタイミングが合ったのがヴェネチア国際映画祭だったんです 。
現地ヴェネチアでの反応はどんなものでしたか。
加藤:コロナ禍の真っ只中だったので客席は50%の入場制限がありましたし、フェスティバルエリアに入るたびに厳しい発熱検査があったり陰性証明書を見せないといけないという状況だったので、もちろんマスクも必須でした。声を出すのもはばかられる中、みなさんすごく拍手をしてくださって、胸が熱くなりましたね。日本の時代劇ですけどそこは意外と心配いらなかった。実はこのときに気づいたんですが、後に日本公開したときよりも海外の映画祭で見た方のほうが、歌の意味を理解しているんですよね。海外だとセリフも歌詞も全部字幕がつくので、歌詞の意味もしっかり伝わっていたんです。
それで日本でも応援上映から歌詞を表示するようになったんですね。
加藤:そうなんです。海外のお客様は映画を観ながら声を出したりリアクションをすることに慣れているので、海外向きな作品でもあったんですよね。湯浅監督も「時代のことは気にせず音楽を楽しんでほしい」と海外の取材や舞台挨拶でよくおっしゃられています。
竹内 あと、ヴェネチア国際映画祭ではオリゾンティという部門だったんですが、選出作品が発表されるプレスカンファレンスで『犬王』は「日本アニメーションのロックオペラ」と紹介されました。海外の人はそんな風に感じてくれるんだ、と嬉しかったです。
湯浅監督の名前を世界にとどろかせたいという思いを胸に、実績を積み重ねていったんですね。
竹内:加藤はアスミック・エース内で実写映画のセールスもやっていて、私がアニメ作品で一緒になったのはここ4、5年なんです。彼女はTVアニメ、劇場アニメ、実写映画の販売を定期的にやっているので、実写、アニメ問わず作品ごとに相性の良い海外のパートナーがどこなのか相談していけるんですよね。弊社は大きな映画会社のようにローラー作戦でできないけれど、どの部門もオーダーメイドのように作品の特性をみんなでじっくり考えて、最適な策を作っていける。国内の宣伝もそうですが、それってすごくいい形だし、製作としてもすごく幸せなことだなと思うんです。
加藤:ありがとうございます(笑)。弊社にはたくさんプロデューサーがいて、実写のプロデューサーもいるわけです。中でも竹内はシネマート(CineMart)やロッテルダムラボ(Rotterdam Lab)に参加したりと、海外について学びたいという意識がとても強い。自身のネットワークも持っていますしね。海外ってスピード感がとても大事なんですが、日本はそれが遅いので展開する上での支障になることもあるんです。世界で日本映画が勝っていくためには、海外が求めるところに応えないといけないときもある。竹内はそういったニーズをしっかり意識しているので、一緒にやっていてとてもやりやすいんですよ。ヴェネチアなど映画祭に出す中でも、先方から問い合わせが来たときに、竹内と一緒だとすぐに返事ができる。通常だといろんな確認が重なって返事をするまでに時間がかかり、機会を逃してしまうこともありますから。このプロジェクトは常に竹内の横にチームのみんながいて、並走するように走っていました。竹内とだったから海外でのびのびと展開できたと思っています。
竹内:関わる人たちみんなが何かのプロフェッショナルで、それぞれのスタイルが一つの作品を軸に集まって、同じ方向に向かって走っていくっていうのが理想なんですが、『犬王』はまさにそれができた作品でしたね。私はもともとセールスの知識が乏しくて、『犬王』をどうやって売っていったらいいんだろうと思っていたときにロッテルダムラボの募集を見て、少しでも加藤の仕事が理解できるように、同じスピードで反応できるようになりたいと思って参加したんです。一方で加藤は、撮影所での業務経験もあるので、製作の過程にも精通していて。『犬王』でも制作で何が起きているかをわりと初期から共有していました。「これ間に合わないかも」ってなったときも、「大丈夫です、予測してました」って言われたりして(笑)。安心して並走できましたね。
関わる人たちみんなが横並びというのは、やはり珍しいことでしょうか。
加藤:珍しいと思いますね。原作の方々やスタッフ、キャストのみなさんも協力的だったというのも大きいですが。
簡単には真似できない体制かもしれないですね。
竹内:人数もほどよいのかもしれません。多すぎないところでみんなで話し合いながらやっていけるのが弊社のいいところだと思います。アヌシーでも、セールス担当がプロデューサーと一緒に現地に行って、一緒に企画を話すって珍しいと思いますし。
――映画が完成してから、予想外だった出来事はありますか。
加藤:今回驚いたのは、パートナーとして組んだ海外の会社。最初に組んだのはアニメ専門の映画会社や配給会社でしたが、ヴェネチアへの出品が決まった後に組んだヨーロッパのパートナーは、それまでアニメをやったことのない会社もありました。もちろん主要国であるアメリカやイギリス、フランスなどで見てくれるのはアニメファンの方たちなのですが、さらに一段階客層が広がった気がしましたね。
竹内:公開後も湯浅監督には本当にいろんな場所を回っていただきました。日本国内もそうですし、海外も。やはりヴェネチア出品が決まったことで、他の映画祭でも選出していただくことが多かったんですけど。そうやって各地を回ることってはたしてどんな効果があるんだろうと悩んだ部分でもありました。ですが湯浅監督が次回作をゆっくり準備されるということで、せっかくなのでいろんな国のお客さんの反応を見ていただこうということになったんです。その積み重ねで、ゴールデングローブ賞にもノミネートされることになりました。
今ってどうしても、次の作品、次の作品となってしまうんですが、1人のクリエイターが作品をひとつずつ積み上げていき、それをお客さんに見ていただくことで広がっていく。そしてその感触を感じて楽しむことってすごく大事なんだなって。今回のことを学びとして、どこまで自分たちが動けるか、各々の力をどうやって組み合わせられるかというアイデアも出しやすくなりました。また素敵な人たちと力を合わせて、いい作品をより多くの人たちに届けられたらと思いますね。
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