Project Story
プロジェクトストーリー
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劇場に足を運んでもらうためのファンサービス
全2回連載
インタビュー・文:大曲 智子
スタッフとキャストが楽しみながら制作されたアニメ『オッドタクシー』の劇場版、『映画オッドタクシー イン・ザ・ウッズ』。第一回では、TVシリーズから見ているファンと、劇場版で初めて本作に触れる新規顧客に向けた宣伝プランを聞いた。第一回に引き続き『オッドタクシー』プロデューサーのひとりであるP.I.C.S.の平賀大介氏と、アスミック・エースでプロジェクトを担当した事業企画部の竹迫雄也。そしてアスミック・エースで本作の劇場営業を担当した映画営業部の松永万里の3名にも参加してもらい、公開前後の具体的な施策について聞いた。
劇場周りの施策や、公開後の宣伝について伺っていきます。劇場の営業担当である松永さんも、『オッドタクシー』のファンだったそうですね。
松永:僕はダイアンのファンで、ダイアンのお二人が出ているということでTVシリーズを楽しく見ていたんです。その後、アスミック・エースで『映画 オッドタクシー イン・ザ・ウッズ』を配給するとなったときに、上司が「ファンなんだからやりなよ」と言ってくれて、それで僕もアサインされることになりました。私に限らず、チームみんな『オッドタクシー』のファンなんですよね。
劇場でも多く飾られた『映画 オッドタクシー イン・ザ・ウッズ』のポスターは、劇場版アニメらしからぬ不穏な雰囲気が逆にインパクトを持っていました。劇場営業する上でどんな印象でしたか?
松永:映画のポスタービジュアルって基本的に主演俳優や、アニメなら声優さんのお名前が入っていたりするものですけど、『映画 オッドタクシー イン・ザ・ウッズ』は本当に何も書かれていなかったんですよね。主演の花江夏樹さんの名前ぐらいはあるのかなと思ったら、それすらもなくて(笑)。で、人混みの中で小戸川が不穏な顔でこっちを見ているという。それ以外の人はもはや、登場人物だけどボケてるっていう。意外とこういうポスターって他にはないので、シネコンでポスターが並んだときに、見た人みんな「カッコいい」と言ってくださっていましたね。劇場のスタッフさんからも好評で、「このポスター、カッコいいですね」って話しかけてくださいましたし。僕がたまたま劇場にいたときも、おそらくTVシリーズを見ていないお客さんが足を止めて、このポスターをジッと見ていたなんてこともありました。印象づけるという効果はあったと思います。
平賀:映画のタイトルは、芥川龍之介の『藪の中』から取っているので、ポスタービジュアルもそれがテーマになっています。TVシリーズから一緒にやっているデザインチームである.MPの方たちと話し合って、まさにTVシリーズを観ていない人も目を留めるようなビジュアルにしたいなと思いました。キャラクターをコラージュするようなポスターではなく、作品の根幹を表そうと突き詰めていきました。究極的には「タイトルと公開日の日にちだけにして、他の情報はなくしたらどうだろう。でもOK出ないかもしれないね」なんて言っていたんですが、宣伝チームのみなさんにこれを見せたらすごく反応がよかったんですよね。
竹迫:プロジェクトチームの中でも、「カッコいい!」っていうチャットが飛び交っていましたよ。松永が言ったように、劇場にポスターが並んだところをイメージした時に、このビジュアルなら『オッドタクシー』のアーティスティックな世界観を壊すことなく、かつ他の作品と比べても目立つ。作品を知らなかった方にも届くんじゃないかということで、即決でしたね。
平賀:もう少しタイトルを大きくしてほしいとか色々言われるかなと思っていたので、逆に驚きました(笑)。僕たちはTVシリーズからずっとこの感覚でやってきましたけど、無理にそれを押し通したいわけじゃなく、最大の目的はより多くの観客に届くものにしたいというものだったので。みなさんに後押ししてもらって、自信に繋がりました。
映画で初めて『オッドタクシー』に触れる方のため、プロモーションの中でどんな工夫をされましたか。
竹迫:「TVシリーズを観ていないから楽しめない」と思われるのはもったいないということで、チラシなど様々なプロモーションの中で“初乗り歓迎”というワードを入れて押し出しました。初めて見る方でも楽しめるようにしていますよ、布教用にも使ってくださいというアピールですね。
週替りの入場者特典として、「未公開証言入りステッカー」がついていましたね。
平賀:これも実はすごく大変でしたね(笑)。作品をより楽しんでもらいたい、驚かせたいと思いつつ、予算や現場のオペレーションなどをクリアできるものという。『オッドタクシー』はミステリー要素の強い作品なので、TVシリーズのときも考察が盛り上がったこともあり、物語をより深堀りしたくなるものにしたいなと思いました。キャラクターものとしてステッカーとしても使えて、なおかつステッカーをめくると新たな証言が出てくるという、2つの満足を叶える特典になりました。
ただ、お客さんの反応をTwitterで見ていたら、中には「証言は見たいけどステッカーをはがしたくない」という方もいると知りました(笑)。ステッカーは貼るものと思っていたのですが、そのままの状態で手元に残しておきたいという人もいたみたいですね。9種類も作ったので、コンプリートできる人はいないかもしれない。それほど難しい特典を作ってしまいました(笑)。
入場者特典というものは、配給会社や劇場にとってはどういうものですか。
松永:最近はいろんな映画が入場者特典をつけるようになっているので、劇場さんも配布の労力はあるとはいえ、好意的に引き受けていただけます。ただ最近はお客様も目が肥えているので、ただ作れば喜んでくれるものでもなくなっているのかなと。そんな中で、『映画 オッドタクシー イン・ザ・ウッズ』の証言入りステッカーは、この作品らしさがあってよかったと思います。キャラクターのビジュアルだけではなく、キャラクターの個性や作品の中身を押し出していくという感じで、非常に好評だったと思いますね。
リピーターを作る工夫など、公開後に行ったことはありますか。
竹迫:先ほどの入場者特典は4週目までのものだったので、5週目から急遽、『オッドタクシー』企画段階のキャラクター原案イラストを使ったポストカードをお配りしました。というのもこの映画って最初は全国公開ではありませんでした。全国に拡大していくのが5週目からだったんですね。最初の入場者特典はもうなかったけれど地方のファンの方たちも大切にしたいということで、急遽用意しました。裏面に木下監督による『ありがとうございます』というメッセージが添えられていて、これも素敵だなと思いました。
ティーチインなどイベントも行っていましたね。
松永:東京と大阪で1回ずつ、木下監督と平賀さんによるティーチインをやりました。ロングランにつながったかはわかりませんが、『オッドタクシー』らしい取り組みになりましたね。驚いたのが、お客さんからの質問がすごくディープだったこと。それに木下監督と平賀さんがしっかり答えられていて、「脚本家である此元さんはこう言っていました」と、細かい設定などその場にいない此元さんの思いも伝えられていていましたね。裏設定などもお話しいただきそれがTwitterで共有されて、さらに考察が深まっていったようです。
平賀:TVシリーズのときはコロナ禍でリアルイベントが全然実施できなかったのですが、映画のプロモーションで初めてお客さんに生でお会いできたのは、嬉しかったですね。ある程度、作品のファンの年代や性別の傾向は何となく分かっていましたが、完成披露や初日舞台挨拶などに来てくださった方たちを見ると、お子さんを連れた方や高齢の方もいたりと、データだけではわからない観客の皆さんの雰囲気を感じられましたね。
最後に、『映画 オッドタクシー イン・ザ・ウッズ』に関わったことで嬉しかったことなどがあれば教えてください。
竹迫:TVシリーズは一ファンとして見ていた『オッドタクシー』ですが、ファンの方の熱量が高いのを知っていただけに、あの熱量に負けないようにと、ファンの方と一緒に楽しみながら作品を盛り上げられたと思っています。とても楽しかったですね。
松永:『オッドタクシー』って作品自体がすごくカッコいいので、この作品を担当したことで、自分の人生もちょっとカッコよくなったな、なんて思っています(笑)。僕もすごく楽しかったです。
平賀:『オッドタクシー』は企画の立ち上げから完成まですごく長かった作品です。原作のないオリジナル作品ですし、最初は見てもらえるのかなという不安もありました。ですが放送が始まって、見た方がどんどん広めてくれたおかげで、映画化までたどり着いたと思っています。作品として幸せな形になりました。これからもオッドタクシーを引き続き応援よろしくお願いします。
公開情報:2022年4月1日(金)TOHOシネマズ新宿ほか全国公開
コピーライト:©P.I.C.S/映画小戸川交通パートナーズ
配給:アスミック・エース