Project Story
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中国公開&中国リメイク契約も決定! 映画『君と100回目の恋』が誕生し、海を越えるまで
全3回連載
「音楽が登場人物の物語にシンクロしていく映画を作りたかった」 井手陽子(プロデューサー)が語る映画製作の裏側。
*インタビューアー:上田智子 *写真:秋元俊一
2017年2月4日に全国公開した映画『君と100回の恋』。アスミック・エースがオリジナル作品として立ち上げた本作は、監督に『黒崎くんの言いなりになんてならない』『君の膵臓を食べたい』の月川翔、W主演にmiwaと坂口健太郎を迎え、大ヒットとなりました。台湾、タイ、韓国で公開されるのと同時に、外国映画の輸入本数に上限があるため参入が難しいとされる中国でも公開、さらに中国でのリメイク契約も決定。10代を中心にグローバルな支持を得た『君と100回目の恋』が「できるまで」と、「中国公開&中国リメイク契約の快挙」、「月川翔監督との仕事」を、全3回でお送りします。
2015年初夏、企画の立ち上げ
映画『君と100回目の恋』は井手陽子プロデューサーの「音楽ラブストーリーを作りたい」という強い熱意によってスタートした。企画の発端をこう振り返る。「少女漫画の映画化が増えていたときに、同じラブストーリーでも、何か違うモノが作れないかと考えていました。日頃からライブによく行くのですが、私にとって音楽というものが、切っても切り離せないもので、スタートはそこから。自分の忘れられない音楽や歌はいつも、それにまつわる思い出や記憶も合わせもって残り続けていることから、音楽が人生に左右する、生きていくことに繋がるものを作りたいなと。 “物語の中で、それぞれの時間、人生が進むにつれ、音楽そのものがシンクロしながら変わっていく様が見れる”音楽映画にチャレンジしたかったんです」。
井手は、何度かの転職を経てアスミック・エースに入社した人物だ。新卒一期生としてサイバーエージェントに入社し、広告商品の開発などを担当。その後、クロックワークスに転職し、営業、宣伝、パッケージ制作、ビデオの営業まで、すべてを経験。「特に営業は、お金の動きをすべて見ることができるのが楽しかった」という。数年後、「映画を作る側に行きたい」と転職するも、なかなか映画作りの機会に巡り合えないまま半年が経った。そのタイミングでアスミック・エースから声がかかり、入社。最初にプロデュースした映画は『ブラック会社に勤めてるんだが、もう俺は限界かもしれない』(2009年)。2013年にWOWOWに出向し、『マエストロ!』(2015年)を制作。アスミック・エースに戻り、企画した2本目の作品が『君と100回目の恋』だった。
「物語と音楽がシンクロするラブストーリー」を作るべく、漫画や小説など様々な作品にあたった。しかし、映画原作としてしっくりくるものがなく、完全オリジナル脚本で制作することに決める。監督は月川翔に、脚本は大島里美にオファーした。「月川監督が作った映画『ソラニン』(2010年)のメイキング映像がすごくよかったので、この監督と音楽映画を作ってみたい、と。大島さんは物語の構成に長けており、モチーフのアイディアにも優れている方だったので、ご一緒したいと思っていたんです」。
脚本作りがスタートしてから、2ヵ月。最初のプロットは、どこかで読んだことのあるような話だったため、すべて作りなおすことを決意。月川、大島、井手の3人で会議室に籠もり、いくつものアイディア出しをした結果、今のモチーフが生まれた。そこから1週間、毎日打ち合わせをしながら詳細を詰め、大筋のプロットが完成した。
若い世代に届けたい
「レコード」は、本作の重要なモチーフだ。互いを想い合う主人公ふたりは、時間を遡ることができるレコードを使って、何度もタイムリープする。「この映画は、特に若い子に向けて作りたかったんです。今って、いろんなものを次々と記録して、簡単に消すことができる時代じゃないですか。“瞬間”を生きるという重みがなんとなく薄れていると感じる中で、今という時間を全力で生きることの積み重ねが人生になっていく、ということを感じられる作品になればいいなあって。だからレコードという、一方通行にしか進まない、止まることができないというモチーフに出会えてよかったですね」。
「今、この瞬間を生きること」。それは、音楽映画だから、より情感を持って描けたことでもあった。「ライブの生の演奏って、CDやDVDでは絶対に感じられない感動がありますよね。ライブに行くたびに、その瞬間にしか出せない音、空気感、お客さんとアーティストの関係性があって、その瞬間を仲間や恋人と過ごせることは、ものすごく大切なことなんじゃないかと思うんです。映画は記録メディアですから、ライブとは真逆。だから、ライブで感じる気持ちを封じ込めた音楽映画を作りたかったのかもしれません。アスミック・エースは、音楽好きの社員がたくさん集まっているので、お家芸的な部分もあったかもですけどね(笑)。
若い子のリアルな反応を知るために、女子高生にラッシュ(音楽やCGなどが完全に入っていない状態の映像)を見てもらったのも面白い経験だった。「編集スタジオの隣に高校があったので、AP(アシスタント・プロデューサー)の子に『ちょっと相談してみて』ってお願いしたら、校長先生が『いい機会なので、各クラスからひとりずつ行かせます』と言ってくださって。会議室で女子高生たちが映像を観賞する様子を、ずっと観察していました。みんな本当に素直に反応してくれて、シャツの胸元が濡れるほど泣いている子もいたんですよ。『ラブストーリーは苦手だけど音楽は好き』って言われたり、我々がすごくこだわっていたカットの反応が悪かったり (笑)。
オリジナル映画だからできたこと
本作は完全オリジナル作品だが、「オリジナルでも、原作ありでも、面白い作品が届けられればどちらでもいい」と、特にこだわりはない。そう前置きしながら、オリジナルだから良かった点は、「より面白くするための変化を恐れずに映画が作れたこと」だと語る。「最初の脚本では、ドラムの鉄太は泉澤祐希くんと出会って。彼が本当によかったので、鉄太のキャラクターを一から全部変えました。原作があると、なかなかそうはいきませんよね」。撮影場所が岡山に決定したあとも、脚本をさらに膨らませることができた。
もうひとつの主役である音楽も、独自の作り方をした。「この映画は、脚本のセリフと、劇中のバンドの歌詞があわさって、ひとつの作品になっているんです。できあがった作品にあとからアーティストが音楽をつける、というのが一般的な映画の作り方ですが、オリジナルだと同時に作業ができる。物語と音楽がシンクロし、寄り添うことができたのは、セリフの代わりとなる歌詞を、miwaさんたちと一緒に作っていけたから」。シンガーソングライターであるmiwaは、自身が演じる葵海(あおい)となって3曲を書き下ろし、クライマックスの楽曲はmiwa作詞、androp内澤崇仁作曲のコラボレーションが実現した。
映画制作と並行し、「君100プロジェクト」として同名タイトルの漫画を『週刊ヤングジャンプ』で連載、本編小説とスピンオフ小説の発売、劇中バンドThe STROBOSCORPとして音楽番組に出演するなど、メディアミックス展開も進んだ。
現在の日本映画業界では、「人気漫画や小説の原作がないと、なかなか企画が通りにくい」と言われている。しかし今回、新鋭の監督、若手俳優たちによるオリジナル作品に挑戦できたのは、「アスミック・エースも、出資をしてくださったパートナーの皆様も、この脚本、このキャスティング、この展開ならいけるんじゃないか、という期待に賭けてくれたんじゃないかと思います」と語る。オリジナル作品への挑戦、そして物語と音楽の力が、日本国内のヒットと、海外進出につながったのだ。
(次回、「中国公開&中国リメイク、驚きの裏話」について)
『君と100回目の恋』について
出演:miwa 坂口健太郎
竜星涼 真野恵里菜 泉澤祐希 太田莉菜 大石吾朗 堀内敬子/田辺誠一
監督:月川翔(『黒崎くんの言いなりになんてならない』) 脚本:大島里美(『ダーリンは外国人』)
製作:「君と100回目の恋」製作委員会 制作・配給:アスミック・エース
彼女の運命を変えるため100回人生を捧げようとした彼と、
彼の1回の未来を守るため自分の運命を決めた彼女の物語。
日本中が<一途男子>に恋をする!歌姫の想いに、奏でられるラブソングに涙!時をかけめぐる純愛映画。
公式サイト:http://kimi100.com/
井手陽子プロフィール
映画製作部プロデューサー。『ブラック会社に勤めてるんだが、もう俺は限界かもしれない』(2009年)、
『のぼうの城』(2011年)、『海月姫』(2014年)、『マエストロ!』(2015年)などを担当。
サイバーエージェントの新卒一期生として入社し、ネット広告事業に携わる。
その後、クロックワークスで映画に関する業務を一通り携わった後、2008年にアスミック・エースに中途入社。
2018年に最新作『羊の木』の公開が控えている。